家のコト

World Life Style~わたしの国の住まい事情~

大自然と寄り添う、完全オフグリッドの暮らし。 南アフリカの村で、コサ式伝統家屋に住まうご夫婦。

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海外の家や暮らしをレポートする「World Life Style」。第32回目は、南アフリカのトランスカイ地方の海岸沿いから。インフラの整っていない小さな村で、村人の教育や医療、農業など暮らし全般の向上に取り組むマーティン夫妻を紹介。先住民コサ族のコミュニティの中で暮らすお二人は、コサ族の伝統家屋をご自分たちで建てたという。大自然に寄り添いながら、オフグリッドで暮らす日々を訪ねた。

マーティン夫婦のセルフビルドという選択

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南アフリカの、トランスカイという地はアパルトヘイト時代の旧独立国で、先住民コサ族の文化が色濃く残っている。ご主人のデイブさんはイギリス系南アフリカ人、奥様リジャーンさんはコサ、インド、マレー、白人の血をひく。(混血した民族を南アフリカでは「カラード」と呼ぶ)ご夫婦の暮らすブルングラ村は、とても小さな村。電気も水道も、もちろん大型スーパーマーケットもない
ご主人のデイブさんはオフグリッドのスペシャリスト。2003年にオフグリッドの宿「ブルングラ ロッジ」を創立。なんとロンリープラネットの賞や、南アフリカの観光フェアトレード賞などを受賞し、技術やコミュニティと一体になって行う事業が評価された。
その豊富な経験を生かし、2012年にご自宅をセルフビルドで建てた。使用済みの水が畑に流れるシステムや、太陽パネル、ソーラー温水器、コンポストトイレなどを作り、電気、水道、下水などのインフラがなくても地球と循環して快適に暮らせるようなシステムを作ったのだ。
建てたコサ式の家は二つ。一つはキッチン、リビングルーム兼ゲストルーム。もう一つはベッドルームとトイレ、シャワーが仕切られ一緒になっている。

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コサ族の伝統家屋は大工に建ててもらったりせずに、家族や友人に手伝ってもらい、その地にある建材で建てる

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粘土質の土と草を混ぜて作った「マッドブリーク」と呼ばれるレンガを使って建てるという。壁に漆喰を塗り、その地で収穫した藁で屋根を作る

自然の恵みで、快適なオフグリッドの暮らし

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ご主人のデイブさんは世界中の国々を旅する中で、先住民のコミュニティの中で暮らしてみたいという夢を抱いた。2002年に長距離に海岸沿いを渡り歩き、素晴らしい景色と先住民のコミュニティを探したという。そして、この素晴らしい景色のブルングラ村にたどり着く。2005年にケープタウンで暮らしていた奥様リジャーンさんを村に呼び、コサ族式の結婚式を挙げ、お二人はこの地で結婚生活をスタートさせることになった。

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キッチン兼用のゲストルームはダブルベッド一つとシングルベッド2つ。夜はベッド仕様だが、日中はソファとして使われる。ベッドの下は収納スペースだ。部屋からは海が望め、赤いカーテンはデイブさんのお母様の手作りだとか。

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この家に一歩入ると、ご夫婦が世界中を旅した時の写真が目に飛び込んでくる。5年に1度、バックパックの旅で1年間、世界中を旅しているというお二人の家の壁には、キャンバスにプリントした素敵な旅の写真が散りばめられ、旅好きのお二人らしい雰囲気を醸し出している。アフリカ、トルコ、ラダック、インド、メキシコ、スペインなど数知れない国々の写真を展示。物をあまり所有せず、シンプルな暮らしを楽しむお二人の宝物は、このような素敵な旅の写真なのである。

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友人のスイス人に作ってもらった素敵な椅子は、ベッドルームのシンボルだ。収納にもなり、手作りならではの暖かさが感じられる。また椅子の隣に置かれた杖は、村の長老から頂いたデイブさんの宝物。横に置かれたカゴはコサ族の伝統工芸品で、畑仕事などに使われるとても頑丈なカゴだ。

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ナチュラルな木々を使って、鍋を吊るすように収納。キッチンを始め家々のインテリアにはリジャーンさんのセンスが光る。料理は数ヶ月に一度、供給があるガスで。キッチン下には収納棚をつくり、布で目隠し。スーパーマーケットのないこの村では数ヶ月に一度街に行き、パスタや、調味料などをまとめ買いするので、広めの収納スペースは必須となる。

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南半球は銀河の数が北半球よりも多いので、満天の星が見られる。電気のないこの村の星空は圧巻で、数分置きに流れ星を見ることができる。天の川の下で入る露天風呂もデイブさんの手作り。薪の力で体の芯まで温まれるのだそう。また、日中のバスタイムには、一転青い空と海が広がりオーシャンビューを愉しむことができる。

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電力は全てソーラーパネルで賄われている。パネルは全部で4枚使用。温暖な南アフリカの気候は、太陽が燦々と照りつける日が多い。冬は気温こそ下がるが、乾季なので常に晴れている。太陽電力が非常に適した気候と言えるだろう。その電力で洗濯機や掃除機を使うこともできるそう。

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コンポストトイレは、糞尿を分けることで、悪臭を防ぎ、畑の堆肥として使うことができる。

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村には井戸があるが共同なので、各家庭にはタンクが設置され、屋根を伝わってきた水を貯めている。空気が澄んでいるので、安心して飲める水だ。また、各部屋へもソーラー電力で動くポンプで水を引いている。

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おふたりの家庭菜園にはキャベツ、ほうれん草、ピーマン、ネギ、ビートなどが植えられており、野菜を買わなくても有機野菜が食べられる。今年は米作りにも挑戦し、50kgの米が収穫できたそう。来年はその米を使って大規模に植える予定。

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大量に採れたピーマンや唐辛子、ビートなどの野菜は保存食の瓶詰めに。料理上手の奥様リジャーンさんが作るピクルスはとってもおいしい。

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手作りの養蜂箱で、近くの森に住むミツバチを呼び寄せている。アフリカの蜜蜂はとても攻撃的なので、収穫する時は装備が必要だ。一つの養蜂箱でおふたりの1年分の蜂蜜が収穫できる。香り高く、濃厚な味だ。

オーシャンビューが美しい自然豊かな村

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コサ族は放牧民族で、一般家庭には牛や豚、羊、山羊、鶏などの家畜が放牧されている。儀式の時は、家畜を屠り、新鮮なお肉をいただいたりと、村の食は豊かだ。マーティン家では家畜は飼っていないものの、ご近所さんの家畜がそこら中に歩いている。
大自然に抱かれるように暮らすこのコサ族の家々は、海と森と丘に囲まれ、ゆっくりとしたのどかな時間が流れている。
週末のご夫婦の過ごし方は、家の手入れをしたり、ガーデニングをしたり、ビーチでのんびりしたり、コサ族の儀式に呼ばれることも。街のようなアクティビティーはないが、村ならではのゆったりとした過ごし方を楽しんでいる。

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■プロフィール■
ご主人のデイブ・マティーンさん(42歳)は、ケープタウン出身のイギリス系南アフリカ人。ブルングラ村のコミュニティ支援施設の創立者兼ディレクター。
奥様のリジャーンさん(42歳)は、先住民の血を引く南アフリカ人。NPOのファイナンスの仕事をしている。
〜住まいについて〜
家は約6坪コサ式の家が二つ。敷地は約1500坪。現在は土地と家はお二人に所属しているが、使い終わったらコミュニティに返還される。セルフビルドの費用は約4万ランド(約60万円)。

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■南アフリカの不動産事情■
南アフリカの都市と村では土地に対する考え方が違う。村の場合は王や村の長に許可をもらう必要がある。買うのではなく、儀式などを行い、交渉次第で土地を借りたり、もらったりする。またコミュニティに属し、コミュニティで行う儀式などに参加する必要がある。人気の都市ケープタウンは、世界中の別荘が並ぶほど人気。しかし雰囲気の良い郊外の住宅街と、アパルトヘイト時代に有色人種が強制的に住まわされたタウンシップと呼ばれる場所では、その値段に格差がある。
上流階級が暮らすクリフトンは一戸建て住宅4LDKプール付きで3千9百万ランド(約5億8千万円)、中流階級が暮らせるようなミューゼンバーグと呼ばれる郊外で、3LDK一戸建て住宅180万ランド(約2700万円)。カエリチャと呼ばれるケープタウン最大のタウンシップは、3LDK一戸建て住宅が30万ランド(約450万円)。大抵は銀行のローンを組んで購入する。土地を購入する場合は1坪9万ランド(約126万円)。賃貸の場合は2LDK一戸建て住宅で家賃月1万5千ランド(約20万円)。敷金として一ヶ月分を払い、不動産屋を通した場合は手数料8%程度かかる。

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